2017年5月 6日 (土)

細葉のアキス 
Acis trichophylla

アキス・トリコフィラ(Acis trichophylla: ヒガンバナ科)が咲いています。


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アキス属は英国の植物学者ソールズベリー(Richard Anthony Salisbury:1761–1829)さんによって、1809年にスノーフレークで知られるリューコジュウム(レウコユム,Leucojum)属から分割された属です。
1880年代になり、再びリューコジュウム属にまとめられましたが、2004年に葉に幅があり、花被片に緑の模様があるリューコジュウム属の特徴を持つ2種を残して、そうではない9種がアキス属へ再分類されました。

アキス・トリコフィラはスペイン、ポルトガル、ジブラルタル海峡を隔てて対岸のモロッコなどに分布しています。
高地には自生せず、海岸の松林の砂地で見られます。

種小名トリコフィラは、「糸状(tricho)の葉の(phylla)」という意味で、5〜20cmの松葉のように細い葉が球根から数本出て、渦巻くように地面を這い回っています。
花茎は渦巻いている葉とは関係ないようなところから、潜水艦が潜望鏡を上げるように、地面から突き出てきます。
10cm〜25cmの花茎を立て、長さ1cmほどの白色かピンクの2〜4個の釣り鐘型の花をつけます。

夏の乾燥に耐え、休眠中の湿気にも平気なのでほったらかしでいいのですが、この株は2014年に咲いたきり、葉ばかり茂らせていて、今年3年ぶりに咲きました。
その間分球して、今年は花茎が4本立っています。

英名はspring bell(春の鐘)、lusitanica bell(ルシタニア(イベリア半島の古名)の鐘)です。

アキスという属名についてソールズベリーさんはその由来を、ローマの詩人オウィディウス(Publius Ovidius Naso)の「メタモルフォセス(変身物語)」に因むとしか説明しなかったそうです。
メタモルフォセスに登場する、海の妖精ガラテアと恋に落ちた川の妖精ニュンペーの息子、青年アーキスに由来するのだろうということは分かるのですが、アーキスがこの植物とどのような関係にあるのか分かりません。

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2017年5月 3日 (水)

バランサさんのオーニソガラム 
Ornithogalum balansae

オルニトガルム・バランサエ(Ornithogalum balansae:ユリ科オルニトガルム属)が咲きました。


Ornithogalumbalansae1


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ヨーロッパや、西アジア、南アフリカに分布しています。
1753年にリンネが12種をまとめてオルニソガルム属に分類しました。
その特徴は、線形か披針形の葉は球根から出現する1枚から数枚で、常緑であったり、花の時期には枯れているものもあります。
時には多肉の葉を持つものもあり、多岐にわたっています。

オルニトガルム属はヒアキンタ亜科(Hyacinthaceae)に含まれ、スキラ(シラー,Scilla)属と近縁ですが、スキラ属のように花被片が合着して鐘状にはなりません。

しかしユーラシア大陸のオルニトガルム属だけでなく、南アフリカで調査が進むにつれ、分類上の混乱が生じているのか属する種類も50〜300種あるといわれています。
オルニトガルム属にアルブカ(Albuca)属,ディプカディ(Dipcadi)属,ガルトニア(Galtonia)属,ネオパテルソニア(Neopatersonia)属,プセウドガルトニア(Pseudogaltonia)属を含めようという意見もあります。

パシフィック・バルブ・ソサエティ(Pacific Bulb Society)のサイトには、2009年のマンニングら(Manning,J.C. et al)の考えを参照して、以下のように分類できると説明されています。

アルブカ群
ディプカディ・プセウドガルトニア群
ガルトニア・ネオパテルソニアを含むオルニトガルム群

アルブカ群は花披の外側に真ん中に目立つ緑か茶色の縦に走る筋があり、中心線に沿って3-5本の葉脈が集まっています。
オルニトガルム群はあったとしても葉脈のない細いかぼんやりした暗い筋が花被片にあります。
この分類基準に従うと、これまでオルニトガルム群に含まれると考えられていた種類がアルブカ群に属していることになります。

さてオルニソガルム・バランサエはバルカン半島、グルジア、トルコの山地の草原に自生します。

早春に球根から2〜3枚、幅広の披針形の葉を出します。

矮性種で、15cmまでの高さに、2.5cmほどの白い花を総状花序に数個の花をつけます。
花被片の裏側の中央には明るい緑色の筋が走っています。

オルニソガルムというと結構背丈がありますが、これは地を這うように花を広げます。

フランスの植物学者バランサ(Gaspard Joseph Benedict Balansa:1825–1891)さんに因む名です。

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2017年4月29日 (土)

愛らしいムスカリ 
Muscari pulchellum ver. pulchellum

ムスカリ・プルケルム(Muscari pulchellum ssp. pulchellum:ユリ科ムスカリ属)が咲きました。


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ボツリアンツス亜属のムスカリですが、「愛らしい」という種小名通りの比較的サイズの小さい種類です。
ムスカリ・ネグレクツム(Muscari neglectum)の矮性変種、あるいは近縁種と見なされています。

ペロポネソス半島や対岸のギリシャ側南東部、ポロス島やクレタ島などのエーゲ海の島々などの海抜100〜1200m山地に分布しています。
石灰岩の瓦礫地の斜面やギリシャモミの林間に自生しています。

葉は球根の中心から出るのではなく、いびつなところから3〜5枚出てきます。
葉は線形で、10〜20cmの長さです。ムスカリ・アルメニアクム(Muscari armeniacum)のように渦を巻くように地面に沿って広がっています。
花茎は15cmほどで、下部の稔性花は黒のような暗青色をしています。
1番上の写真では、背丈が小さいのに花序が長そうに見えるのは、花自体が小さいからで、花の長さは5mmほどです。
上部の不稔花は淡青色をしていますが、5輪ほどしかなく、ない個体もあるようです。

面白いのは蕾の時に花序のてっぺんが色づくことです。
てっぺんに紺の色がついてから、下の方の蕾に同じ色がつき、下から順に花が開いていきますます。
その様子が一番下の写真ですが、紺、深緑、紺という色合いは、和風で、粋な組み合わせです。
そしててっぺんの紺がだんだんと膨らむにつれ空色になっていきます。
その頃には下の花が黒色に変わっていき、開口部に沿って白い縞がつきます。

この植物はフォン・ヘルドライヒ(Theodor Heinrich von Held Reich:1822-1902)さんとギオバンニ・サルトーレリ(Giovanni Battista Sartorelli:1780-1853)さんによって 1859年に公表されています。
フォン・ヘルドライヒさんはレオポルディア・テヌイフロラ(Leopoldia tenuiflora)を公表したドイツ生まれの植物学者で、アテネ植物園園長の、学名にHeldr.と記されます。
サルトーレリさんは学名にSart.と記されるイタリア人の植物学者で、イタリア北西部の森林の花を調査しました。

これ以外の亜種としてはムスカリ・プルケルム・クレプシドロイデス(Muscari pulchellum ssp. clepsydroides)が知られています。基本種に比べるとずっと遅く、キューガーデンのKarlén, T.によって1984年に公表されています。
ムスカリ・プルケルム・クレプシドロイデスは、エーゲ海中部・キクラデス諸島のナクソス島に分布し、基本種ほど色が濃くないようです。
変種名クレプシドロイデスは「水時計(clepsydra)のような(oides)」という意味ですが、どの特徴を指しているか分かりません。

異学名はBotryanthus lelievrii var. pulchellus,Botryanthus pulchellus,Muscari racemosum subsp. pulchellum,
Muscari racemosum var. pulchellumなどで、似ても似つかぬムスカリ・ラケモスム(Muscari racemosum)の変種や亜種と考えられていたのは、ムスカリ属への混乱があったからでしょう。

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2017年4月24日 (月)

ダルマチアのヒアシンス 
Hyacinthella dalmatica

ヒアキンテラ・ダルマチカ(Hyacinthella dalmatica:ユリ科ヒアキンテラ属)が咲いています。


Hyacinthelladalmatica1


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ヒアキンテラ属はトルコを中心にヨーロッパからアジアに約18種が分布しています。
ムスカリに近縁の球根植物で、過去にはヒアキンツス属(Hyacinthus)に分類されていたことがあります。
夏に高温の時期を要し、乾燥した丘陵の瓦礫地に自生します。
球根にはしばしば粒状の結晶(粉)を吹きます。
葉は2〜3枚出現し、花は淡青色から濃紫色の口の開いた鐘型で、短い花梗があります。
ムスカリ属は花の先端が萎んでいること、またスキラ属の花被が分離していること、ヒアキンツス属とは花被先端が細く反り返らないことで区別されます。

ヒアキンテラ・ダルマチカはバルカン半島北西部に自生していといわれていますが、実際はヨーロッパ南東部の地中海沿岸に分布しているようです。

球根園芸で著名な英国のブライアン・マシュウ(Brian Mathew:1936–)さんの古い著書「小さな球根(The Smaller Bulbs, 1988)」には、ヒアキンテラ・ダルマチカはヒアキンテラ・パレンス(Hyacinthella pallens)の異学名とあり、球根専門園芸家がヒアキンテラ・パレンスをヒアキンテラ・ダルマチカという名で流通させていると書かれています。

ところが今日では、the Plant Listにはヒアキンテラ・パレンスはヒアキンテラ・リューコファエア (Hyacinthella leucophaea)の異学名となっています。

このような事情から推測するに、ヒアキンテラ・ダルマチカには地方変異があり、以前より混乱が生じていたと思われます。

さてヒアキンテラ・ダルマチカの花は初春に花序を出しますが、我が家のダルマチカは今ごろ咲き出しました。
花序を伸ばして、最終的には背丈は10〜20cmになります。
花柄は上に向けてつき、花もやや上向きから横向きに開きます。

花は長さ1cm近くもあり、ムスカリなどに比べると大きく、細い鐘型をしています。
花披は先で浅く6裂し、裂片は反り返ります。
雌しべ1本、雄しべ6本で、花から出ることはありません。
花色は透明な印象の薄青色から明るい青紫色をしています。

幅のある披針形の葉は花序を抱えるように、2〜3枚が根出します。

属名はギリシャ神話のアポロに愛されたスパルタの王子ヒアキントスに由来します。
種小名ダルマチアはクロアチア共和国の南部に当たる地域、アドリア海沿岸地域一帯を指す歴史的名称に因みます。

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2017年4月21日 (金)

黄色のムスカリ2種 
Leopoldia Tenuiflora & Muscari macrocarpum

よく似た花のレオポルディア・テヌイフロラ(Leopoldia tenuiflora:ユリ科レオポルディア属)とムスカリ・マクロカルプム(Muscari macrocarpum:ユリ科ムスカリ属)が咲きました。

レオポルディア属とムスカリ・マクロカルプムはよく似ていますが、どう違うのか比較してみました。

レオポルディア属はムスカリに近縁で、以前はムスカリ属の下位属としてレオポルディア亜属に含まれていました。だから似ているのは当然です。

レオポルディア属は西はカナリア諸島から東はイランまで、地中海沿岸や近接する諸島部に広く分布しています。
ムスカリミア亜属はレオポルディア属に比べると分布範囲が狭く、エーゲ海からトルコにかけての地域の岩場に自生しています。

レオポルディア属は、花序の下部に咲く稔性花は花筒が長く、褐色から黄色、時には白色をしています。
不稔花は青や藤色時にはピンクをしています。

ムスカリミア亜属は、レオポルディア属と同様、花序下部の稔性花は花筒が長く、褐色から黄色、白色の花をつけます。上部の小さくて無花柄の不稔花は紫紅色をしています。
色的にはよく似ています。

しかし花筒の先をみると、レオポルディア属は6個の膨らむ黒っぽい副花冠(ワスレナグサの花弁にある突起のような付属物)をつけます。
ムスカリミア亜属は花筒の先には副花冠がなく、口を萎めています。

根については両方とも大きな球根で、レオポルディア属は地上部が枯れると根も枯れますが、ムスカリミア亜属は、根は多年性で、太く長い根(紡錘根)は、地上部がなくなっても枯れません。したがって夏も灌水は欠かせません。

一見よく似ていますが、レオポルディア属は花の先が萎んでいないのでムスカリ属から外され、ムスカリミア亜属は花の先を萎ませているのでムスカリ属に留められたのでしょう。


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さてレオポルディア・テヌイフロラはドイツやイタリアから東にウクライナ、イラン、サウジアラビアまで分布しています。
チェコの植物学者イグナツ・フリードリッヒ・タウシュ(Ignaz Friedrich Tausch:1785-1848)さんが発見し、1878年にドイツ生まれの植物学者で、ギリシャでアテネ植物園の園長をしたテオドール・フォン・ヘルドライヒ(Theodor Heinrich von Heldreich:1822-1902)さんが命名しました。

背丈は20〜50cmになり、長さ10〜25mmの細い筒状花を、晩春から初夏にかけて咲きます。
下部の稔性花は緑がかった黄色で、上部の不稔花は花柄がなく紫色をしています。
花の先は少しすぼんでおり、他のムスカリと同じ感じです。

葉は2〜4枚で、長披針形をしています。

葉の間から花序が出てきたときは先のとんがった円錐形をしています。

英名は細花グレープヒヤシンス(narrow-flowered grape hyacinth)です。
種小名は「細い、薄い、肉のない(tenuis)花の(florum)」という意味で、英名のように細い花の形状を指しています。
長いというほどではないのですが、ムスカリの仲間の中では長い花筒を持っています。


Mmacrocarpum8


Mmacrocarpum10


Mmacrocarpum9


ムスカリ・マクロカルプムは、やはりレオポルディア・テヌイフロラに比べると狭い範囲、クレタ島東部を含むエーゲ海の諸島、トルコ北西部などの岩場に自生しています。

ムスカリ・マクロカルプムは以前はムスカリ・モスカツム・フラブム(M. moschatum var. flavum)という名で知られていました。基本種のムスカリ・モスカツムは成長が遅いかったので流通することはなかったようです。
ムスカリ・モスカツムは花色が始めは紫、後にクリーム色になるムスカリです。

その変種のムスカリ・モスカツム・フラブムは開花すると全てが黄色い花を咲かせますが、後にムスカリ・モスカツムの変種ではなく、独立した種としてムスカリ・マクロカルプムと分類されたのです。

ムスカリ・マクロカルプムは花茎が立って、蕾が総状花序につく頃は白みがかった青紫色をしており、このような色の花が咲くのかと思わせます。
蕾の花筒の先には6個の膨らみ(副花冠)があります。

花筒の先の中心部が開く前には黄味を帯びてきますが、全体が黄色くなる前から、副花冠を含む先の方が茶褐色に色づいてきます。
花筒の先の中心部が開くと(多分開花と言っていいと思います)、全体が黄色くなります。
さらに咲き進むと茶色い斑点が出だし、全部が茶色くなって枯れてしまいます。
バナナのような香りが花にあります。

葉は4〜6枚で、長さ10〜20cmの青緑色の幅1cmほどの細長披針形で、湾曲します。

冷涼な気候ではなかなか成長しにくいようです。しかしムスカリ・マクロカルプムが発見され、容易に育てることができるようになって1948年に王立園芸協会(RHS)のAward of Garden Meritを受けています。
2003年頃から米国で園芸種として流通するようになり、知られるようになりました。

英名は黄花グレープヒヤシンス(Yellow Grape Hyacinth)です。
種小名マクロカルプムはギリシャ語由来で、「大きな(macro)果実の(carpus)」という意味で、大きなタネが稔ることを指しています。

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«バビアナ・ピグマエアの名前の由来 
Babiana pygmaea